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Leaders on the Podium / 自分の葬儀の運びを緻密に計画していた故マケイン米上院議員

中山俊宏9月1日から、在外研究でワシントンに滞在している。ここ数年、多い時は年に10回程度訪米していたが、住むのは2006年以来、約12年ぶりだ。嵐の中に飛び込んだ気分で、この1か月は連日、トランプ大統領周辺発のニュースに振り回されっぱなしだった。

新聞や雑誌は斜め読み、ケーブル・テレビ・ニュースはあまり見ないようにと心がけていても、すぐ近くで起きていることばかりなので、気がつくと意識はそちらに向かってしまう。こういう時代なので、情報量はさして日本にいる時と変わらないが、その情報に周囲の人々がどう反応しているのかはリアルに体験できる。

ちなみに私が所属しているのは Woodrow Wilson International Center for Scholars という研究機関だ。ホワイトハウスから数ブロックの所に位置しているが、この臨場感に幻惑されて、ワシントンの power game に目がくらんでしまうと、それはそれでアメリカの現状が見えなくなってしまう。滞在中は、なるべく首都から離れる機会を設け、flyover country(忘れられた地域)にも足を運びたいと思っている。

アメリカに着いて早々、強く印象に残ったのが、アリゾナ州選出の上院議員ジョン・シドニー・マケインの葬儀だ。現地に到着した正にその日に、ワシントンで最も荘厳な建造物である National Cathedral(ワシントン大聖堂)で行われた。マケイン氏は2008年に共和党大統領候補としてバラク・オバマ候補と競ったことで日本でも知られるが、大統領選後も共和党の大物上院議員として留まり、大きな影響力を振るっていた。しかし、そのマケイン氏はトランプ時代に入り、新たな役割を担った。

それは、共和党内抵抗勢力として「トランプ的なるもの」を否定するという役割だった。マケイン氏は、自分が脳腫瘍を患っていることを公表し、先が長くはないであろうことは多くの人が予感していた。8月下旬、氏の家族が治療の停止を公表した時、ついにその時がやってきたと多くの人が悟ったことだろう。

ただ、マケイン氏は黙っては死ななかった。もともと海軍の戦闘機乗りで、政治家としても Maverick(一匹狼)の異名を取っていた。上院議員として重鎮にはなっても、決して静かな賢人という雰囲気を漂わせるわけではなく、気性は激しいままで、正に予測不可能なところがあった。多くの人が葬儀で述べたように、彼は正に fighter だった。

そのマケイン氏は、自分の葬儀の計画を生前に綿密に練っていた。葬儀が「ジョン・シドニー・マケイン」という一個人を追悼する場というだけでなく、「トランプ的なるもの」を拒絶する場にもなるよう仕込んでいた。

無論、トランプ大統領は招かれない。その代わり、ジョージ・W・ブッシュ元大統領とバラク・オバマ前大統領に eulogy(追悼演説)を依頼し、2人は快諾していた。ジャーナリストとしても活躍する次女メーガン・マケインさんのスピーチが葬儀の基調音となった。“the America of John McCain has no need to be made great again because America was always great”(ジョン・マケインにとってのアメリカは、もう一度偉大にする必要などなかった。なぜなら、アメリカは常に偉大だったからだ)とメーガンが目に涙を浮かべながら述べると、葬儀では珍しく、フロアから大きな拍手が湧き起こった。

続いて、ブッシュ元大統領は、ブッシュ政権が water boarding(水責め)の拷問を許容したことに対して、マケイン氏が一貫して批判的な態度を取ったことを想起させながら “John’s voice will always come as a whisper over our shoulder: ‘We are better than this. America is better than this’”(ジョンの声が肩越しにわれわれにささやき続けるだろう、「われわれはこんなではない。アメリカはもっと良きものであるはずだ」)と述べた。

オバマ前大統領は、オバマ外交のもっとも厳しい批判者であり続けたマケイン氏を想起させながら “While John and I disagreed on all kinds of foreign policy issues … We never doubted we were on the same team”(私とジョンはありとあらゆる対外政策で意見を異にしたが…私たちが同じチームに属しているという点を疑ったことはなかった)

トランプ大統領は葬儀が行われている間、ゴルフ場に向かう途中だったという。心を打つ葬儀だったが、ワシントンの喧(けん)騒(そう)の中では、既に記憶の彼方に遠のきつつある。

* * *

中山俊宏(なかやま・としひろ) 慶応義塾大学教授。2018年9月から米ウィルソン・センターのジャパン・フェロー。現代アメリカ政治・外交が専門。著書に「介入するアメリカ」(勁草書房)など。Speech

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